画像電子学会 The Institute of Image Electronics Engineers of Japan | 年次大会予稿 Proceedings of the Meida Computing Conference |
†国士舘大学 総合知的財産法学研究科 | †Kokushikan Univ., Graduate School of Interdisciplinary Intellectual Property Laws | |
‡アズビル株式会社 | ‡Azbil Corporation |
E-mail: †komachi@y-adagio.com, ‡h.okamoto.fi@azbil.com
標準化活動を行うためには,標準化対象技術,標準化手続き,関連する知財等に関する知識・経験を有するだけでなく,複雑な標準化手続きを推進するためのコミュニケーション,ネゴシエーション,リーダシップ等の多様な能力と,業務遂行に関する豊富な経験・成果をもつ人材が必要とされる.
国際標準化が市場獲得の必要条件となり,組織,企業,国にとっての重要戦略に位置付けられている現在,標準化活動を行う人材の育成・確保が急務となっている.そのためには,組織・企業における標準化活動の業務内容を明らかにして,そこで求められるスキルとそのレベルとを明確にすることが重要である.
標準化業務の遂行に関する経験および成果,並びにそれらに必要な知識および能力であるスキルとそのレベルとを明確化することは,標準化人材に要求されるスキルを標準化すること,つまり“標準化人材のスキル標準”を開発することに他ならない.
備考1: これまでに開発されたスキル標準としては,ITの実務能力を明確化した“ITスキル標準”[1],および知的財産人材の実務能力を明確化・体系化した“知財人材スキル標準”[2]があり,既に幾つかの企業において活用されている.
標準化人材のスキル標準があれば,自社の標準化戦略を推進するためにはどのような人材を確保すればいいかが明確化され,外部からの人材導入または社内における人材育成を効果的に行うことができる.さらに,スキルに基づく人材の適切な配置による標準化活動の効率化により,結果として企業の総合的競争力の強化が期待できる.このスキル標準を参照することによって,教育を行う者は,業務内容に合わせたスキル向上を狙った適切な教育・訓練プログラムを提供でき,教育を受ける者は,業務内容に合わせた目標設定が容易となり,キャリアアップに自主的に取り組むことが可能になる.
我が国の組織・企業等がこれらの効果を期待して,このスキル標準を導入すると,それによって,我が国の産業の国際競争力の強化も期待される[3].また,スキル標準の適用は,我が国の組織・企業だけに限定されるものではなく,国際的にも利用可能である.
そこで金沢工業大学は,経済産業省からの委託を受けて,2012年度に標準化人材のスキル明確化に関する調査研究を実施し,標準化人材のスキル標準の原案である“スキル標準−標準化人材に必要なスキルの評価”を開発し[4],[5],2012年度末に経済産業省に原案提出した.この原案においては,まず標準化の活動に必要な業務(標準化業務)を明確にし,それらの業務を遂行する人材に要求されるスキルを評価するための指標(業績評価指標と業務能力評価指標)を規定して,その指標に基づいて各標準化業務に関して必要とされる3レベルのスキルを規定したスキルカードを定義した.この活動と原案内容については,文献[6],[7],[8]に報告されている.文献[8]に記載されている“スキル標準−標準化人材に必要なスキルの評価”のver.1.01(2013-02-28, HTML版)は,2013年5月になって日本工業標準調査会(JISC)のWeb[9]に標準化スキルスタンダードとして掲載された.
ここでは,スキル評価を実行する際に,客観性のあるエビデンスによって指標を運用することが必ずしも容易でない業務能力評価について検討を行い,客観性のあるエビデンスによって指標を運用し易い業績評価に基づいた業務能力評価の可能性について検討を行う.
このスキル標準では,“標準化業務遂行に関する人材の経験および成果,並びに標準化業務遂行に必要な知識および能力”としてスキルを定義し,経験および成果を評価するための業績評価指標,並びに知識および能力を評価するための業務能力評価指標を次のとおり規定する.
(1) 業績評価指標 (Evaluation criteria on performance) 標準化業務に関する人材の経験および成果を評価するための業績評価指標として,次の指標項目を用意する.
(2) 業務能力評価指標 (Evaluation criteria on capability) 標準化業務に関する人材の知識および能力を評価するための業務能力評価指標として,次の項目を用意する.
このスキル標準では,標準化業務を対象とする標準種別ごとに,標準の戦略,開発,活用,普及の各フェーズについて網羅的に分類し,図1に示す.標準種別は,関連する標準化業務を区分するための種別とする.
図1の各セルの中の各標準化業務には,通し番号1) 〜36) を振って,参照を容易にしてある.セルの中の×は対応する業務がないことを示す.
標準種別 | |||||||||
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デジュール標準 | フォーラム・コンソシアム標準 | デファクト・プライベート標準 | 組織内標準 | 各種別共通 | |||||
業務の フェーズ | 戦略 | 標準化戦略 | 1) 標準化戦略 | 34) コン プライアンス | 35) 人材育成 | 36) 知財 | |||
標準化企画 | 2) 情報の収集・分析・評価および標準化戦略案・戦術の作成 | ||||||||
3) 統括(戦略) | |||||||||
4) 渉外(戦略) | × | ||||||||
団体創設 | 5) 団体創設(デジュール標準) | 6) 団体創設(フォーラム・コンソシアム標準) | 7) 団体創設(デファクト・プライベート標準) | × | |||||
団体運営 | 8) 団体運営(戦略,デジュール標準) | 9) 団体運営(戦略,フォーラム・コンソシアム標準) | 10) 団体運営(戦略,デファクト・プライベート標準) | × | |||||
開発 | 技術開発 | 11) 技術開発 | |||||||
作成 | 12) 起案(デジュール標準) | 13) 起案(フォーラム・コンソシアム標準) | 14) 仕様起案(デファクト・プライベート標準) | ||||||
15) 原案作成(デジュール標準) | 16) 原案作成(フォーラム・コンソシアム標準) | × | |||||||
17) 交渉(デジュール標準) | 18) 交渉(フォーラム・コンソシアム標準) | 19) マーケティング(デファクト・プライベート標準) | × | ||||||
団体運営 | 20) 団体運営(開発,デジュール標準) | 21) 団体運営(開発,フォーラム・コンソシアム標準) | 22) 団体運営(開発,デファクト・プライベート標準) | × | |||||
活用 | 実施・利用 | 23) 社内標準管理 | × | ||||||
認証 | 24) 適合性評価 | × | |||||||
25) 認証取得 | 26) フォーラム認証取得 | 27) 民間認証取得 | × | ||||||
普及 | 普及戦略・企画 | 28) 情報の収集・分析・評価および普及戦略案・戦術の作成 | × | ||||||
29) 統括(普及) | × | ||||||||
30) 渉外(普及) | × | ||||||||
宣伝・広報 | 31) 宣伝・広報(デジュール標準) | 32) 宣伝・広報(フォーラム・コンソシアム標準) | 33) 宣伝・広報(デファクト・プライベート標準) | × |
図1 標準化業務の分類
図1の各標準化業務について,スキル評価指標に基づいて3レベルのスキルが規定される.スキルのレベル分けは,次の基準に基づく.
例えば,業務“2) 情報の収集・分析・評価および標準化戦略案・戦術の作成”のスキルは,図1のセルの中のリンク端
“2) 情報の収集・分析・評価および標準化戦略案・戦術の作成”をクリックして示されるように規定される.各標準化業務のレベル毎のスキルの規定(指標項目に関する規定の集合)を,このスキル標準では,スキルカードと呼ぶ.
スキルカードを会社等で運用して評価対象のメンバのスキルを評価する際に,業績評価については経験および成果というそのメンバ固有の客観性のあるエビデンスによって業績評価指標の運用が容易である.しかし業務能力評価については,知識および能力をそのメンバ自身は把握していても,会社として必ずしも明確に把握できていないことが多い.
知識および能力をさらに客観的に査定して業務能力評価指標の運用を行うためには,検定等の手続きが必要になる.そのようにして客観性の高いスキルが決定できれば,さらにそれに基づく資格制度のフィージビリティも視野に入れることができよう.
しかし検定にはそのための組織,制度の確立が必要であり,必ずしも手軽にそれを運用することはできない.そこで,経験および成果の内容から二次的に知識および能力を査定して,業務能力評価を行ことができれば,簡便なスキルの評価が可能になる.
国際デジュール規格の起案を担当した社員について,“12) 起案(デジュール標準)”に基づきスキルレベルを判定する例を考える.次に社員の業務プロファイルを記す.
社員の業務プロファイル:
このプロファイルの内容を“12) 起案(デジュール標準)”のスキルカードに規定されるレベル2のスキル評価指標の項目ごとに整理すると,以降に示すとおりとなる.
==業績評価指標==
==業務能力評価指標==
従って,この社員は“12) 起案(デジュール標準)”のスキルとして規定されるレベル2の要件を満たしている.また,プロファイル項目の6)において f) コミュニケーション力のレベル3の能力を見せてはいるが,強力な反対国がいたわけではないので,i) リーダシップでレベル3の能力があるかどうかは不明である.したがって,レベル2は十分満たしているがレベル3には達していないことが分かる.
5.の例に示したように,経験および成果の内容から知識および能力を適切に査定するためには,業務能力評価指標の各項目に規定される“...できる”ことを明示する事例を,業績評価指標の各項目に規定される経験および成果に関連する実績の細目から洗い出す必要がある.
業績評価指標の各項目に規定される経験および成果に関連する実績の細目は,標準化団体が規定する標準化の手続きだけでなく,各社の業務推進手順にも関連する.従って経験および成果の内容から知識および能力を査定するための一般的な対応表を用意することは難しく,各社においては,各標準化業務についての多くの担当メンバの多くの事例に基づいてデータを蓄積し,自社用のスキルカードをカスタマイズしていく必要がある.それには,社内における多くの標準化活動担当メンバに対し,スキルレベルを考慮した業務目標を設定[10]したうえで評価活動を積み重ねていくことが重要である.
5.に例示した業務は起案で終ることは少なく,引き続いて提案内容を国際規格として成立させる業務に続くことが多い.そのために“17) 交渉(デジュール標準)”のスキルカードを参照し,12)のスキルレベルを規定する指標項目に関連する17)の指標項目について検討し,規格成立に向けてどのようにスキルアップすべきかの検討が求められる.このような業務の流れに応じたスキルカードの適用連携についても,スキルレベルを考慮した業務目標設定と評価活動の積み重ねが必要である.
2012年度末に経済産業省に原案提出された“スキル標準−標準化人材に必要なスキルの評価”に基づいてスキル評価を実行する際に,客観性のあるエビデンスによって評価することが必ずしも容易でない業務能力評価を,客観性のあるエビデンスによって評価し易い業績評価に基づいて行うことの可能性を考察した.
ある社員の国際デジュール規格の起案業務活動を取り上げ,“12) 起案(デジュール標準)”に基づいて,その社員の業務プロファイルをもとに業績評価の指標項目に関連する内容から業務能力評価の指標項目に適合する内容を導いて,業務能力評価を行い,スキルレベルを判定する例について検討を行った.
各企業・団体において, 業績評価指標の各項目に規定される経験および成果に関連する実績の細目の内容から,業務能力評価指標の各項目に規定される“...できる”ことを明示する事例を洗い出して知識および能力を査定するための対応表を用意するためには,社内の標準化担当メンバの事例に基づいてデータを蓄積し,カスタマイズしていく必要があることが示された.
また,各スキルカードを個別に使うだけでなく,標準化活動の業務の流れにおいて現在のスキルレベルから次の業務のスキルを検討し,次の業務に必要な支援・対策の検討に利用する可能性も示した.スキルカードが,標準化活動担当者のスキルを把握し評価するために利用されるだけにとどまらず,標準化活動の目標・計画策定に際しての検討にも適用されることに期待したい.