髙村 誠之(会長,日本電信電話株式会社/法政大学)
Seishi TAKAMURA(President of IIEEJ, NTT/ Hosei University)
最近の学会を取り巻く環境は目まぐるしく変化しています.工学系で最大の学会であるIEEEは,会員数は年々増大を続けており,2024年 1 月の正会員数は 34万人(学生会員なども加えると 47 万人)以上です.IEEEのマイルストーンやアワード,フェロー称号等の授与は企業や研究者の垂涎の的ですし,大規模な事務局(職員1,000名以上)と会員数によるスケールメリットを生かし,デジタルライブラリ IEEE Xploreは 600万件以上の論文・資料を擁し日々参照され,毎年 2,000もの国際会議が開かれ,浮動小数点表現 IEEE 754や Wi-Fi(IEEE 802.11xx)をはじめとする重要国際規格群を標準化し,カバー範囲は電気電子工学にとどまらず,気候変動対応,教育工学,人道工学,薬学,生体医工学,海洋工学などますます広がっています.無償で働くボランティア会員へのサポートも厚く,ボランティアのポジションには我も我もと自薦が集まります.
翻って我らが画像電子学会は,正会員数のピークが 1993年(年度末での在籍数)で,それ以降会員数の減少傾向の歯止めや V字回復に向け諸先輩方が懸命の努力を払ってこられました.一部を以下に掲げます.
こうした努力にもかかわらず本会の正会員数はその後 2006年を唯一の例外として毎年減少し続けています.現在の正会員数は本会発足時を下回り,ピーク時の約 3 割となってしまい,IEEEと本会では巨象と小型犬の体重比程度の差があります.(ちなみに IEEEで年 1回認定される新フェロー数は正会員数の 1/1,000を超えないこととされているため,その基準に倣えば本会では年に 1人もフェローに認定できないことになります.)
でも,大きいことはよいことで,小さいことはよくないことなのでしょうか?
少数精鋭,山椒は小粒でもぴりりと辛い,という言葉があります.ちっぽけで取るに足らないものを虫けらのような存在と言いますが,その虫は,実は地球上で最も繁栄に成功した生物種です.昆虫種は全動物種の7割,生物種全体の6割を占め,個体数でも一番多いのです.大きい生物,強い生物,賢い生物を抑え,昆虫は小さく進化することで地上で最高の繁栄を手にしました.小さいことにはそれだけのメリットがあるということです.
小さい学会は,大きい学会がしていることを模倣したり追随したりはできませんが,せずともよいのです.逆に大きい学会にはできないことができます.小さいからこそ,小回りが利く,環境の変化に適応しやすい,役員から一般会員までの距離が近い,等のメリットがあります.
本会がこれまで会員増を目指してきたにもかかわらず会員数が減少していたことは,本会を最高の繁栄へと導くチャンスが与えられていたということでもあると思います.
画像電子技術は,重要度が低下してもおりませんし,学問的にも終焉しているどころか,常に発展し続けています.この普及を図るためには,会員の皆様による学術的な研究活動だけでなく,事務局やボランティアの皆様による運営活動への下支えが欠かせません.ただしこれまで規模の拡大を志向してきた結果,中止せず継続している活動があるかもしれません.会員が減少している状況では,そういった活動すべてを実施するには人手が足りず,結果的に事務局やボランティアの皆様の過度な負担を招きつつも甘えてしまっていたところがあるかもしれません.もしそうであれば,そこには構造的な問題がある筈ですのでその解決と軽減に向け努力いたします.また,ボランティアの皆様におかれましても,自らが適正と思われる以上の稼働を提供することは,よしとなさらないでいただきたい.こうした「ボランティアファースト」の精神をもって,より健全な組織づくりを目指し,質の高い活動と緊密なコミュニティを重視した小規模学会へのシフトを図ります.もちろん,新規入会の門戸は大きく開きます.結果として本会の存在感を高め,会員一人ひとりがより充実した学術交流を享受できる環境を提供します.
これからの任期中,会員の皆様と共に力を合わせ,本会が適正サイズに進化することに向けて尽力する所存です.どうぞ,ご理解とご協力を賜りますよう,お願い申し上げます.