表面下散乱を考慮したレンダリングは,写実的なCG を作成するうえで不可欠である.しかし,表面下散乱を物理的に正しく扱う場合,半透明物体中を進む様々な光の経路を考慮する必要があり,この経路の多さが半透明物体の高速なレンダリングを難しくしている.物体がそれほど透けておらず,多重散乱光が支配的となる材質を仮定したとき,表面下散乱光の寄与は光路が長くなるにつれて急激に小さくなることが知られている.この観察から,半透明物体内部を最短の光学的距離で透過した光ほど,レンダリング結果に対して視覚的により重要であると考えられる.そこで入射光の強度および光学的最短距離の2 つを考慮し,最も明るさの寄与が大きくなる表面下散乱光ただ1つを用いて物体表面上の輝度を推定する.本稿ではこれを寄与最大経路と呼び,この経路ただ1つを用いて物体表面上の輝度を推定する.本手法は,寄与最大経路を通った表面下散乱光は視覚的に大きな重要度を持つという経験則に基づく手法である.このような寄与最大経路1 つから表面下散乱光を計算することで,物理的な正しさは保証されないものの,もっともらしいレンダリング結果をリアルタイムに得ることができる.特に,物体内部を考慮した光路の計算コストは非常に高いが,本手法では考慮する経路の本数を限定したことにより,内部に異なる材質の半透明物体が含まれた物体を実時間にレンダリング可能とした.
小澤禎裕† 谷田川達也† 久保尋之†† 森島繁生†††
† 早稲田大学, †† 奈良先端科学技術大学院大学, ††† 早稲田大学理工学術院理工学総合研究所