最終更新日:2001.11.29 |
次世代符号化方式JPEG2000/Motion- JPEG2000のHDTV・超高精細画像のメディア応用について |
久下哲郎(NHK放送技術研究所) |
JPEG2000(JP2と略)は,現在のJPEG規格に替わる新しい静止画圧縮技術で,さらにJP2をベースに動画に応用するMotion-JPEG2000(MJP2と略)があり,規格化・実用化が進められている. JP2/MJP2の概要を解説し,HDTV・超高精細画像など,次世代の高精細マルチメディア動画像に適用するための課題を幾つか紹介する.
JP2の概要
JP2は,1) 高ビットレートから低レートまでの広い圧縮レンジでの高画質, 2)階層性による多様な画像の取扱い, 3)可逆圧縮 / 非可逆圧縮の統合などを主要な目標とし, A) Wavelet変換(2種類), B) bitplane量子化・ 適応的算術符号, C) タイリング,ROI 等の新たな要素技術を導入している.
JP2動画像符号化の課題に"flicker artifact"の低減がある.これには人間の視感度特性によるWavelet変換係数の補正(visual weighting) が有効で,Weber則により視覚的歪の軽減効果が説明できる.
HDTV(1080/60I)の課題(Interlaceでの動き部分の画質劣化)
interlace走査TV動画信号では,被写体の物理的移動や,カメラのパン・チルト・ズーム等により,frame画像上でエッジ部分に,走査線1本毎の水平櫛状部分が生じ,JP2符号化で動物体の輪郭部分の歪が発生する.この歪は高精細なHDTVは顕著となる.この部分は2次元sub-band領域 H1L1 (垂直高域,水平低域)に属し(Fig.1),JP2符号列の後尾に位置するので, bitplane廃棄の影響を強く受けて,量子化誤差が増大する.この歪の解消にはJP2符号化に先立ち,入力画像を適応的空間filterで前処理する手法が提案されている.
超高精細画像適用の課題
超高精細画像はHDTVの4倍以上もの大規模な画像データとなり,多重解像度レベル数と画像サイズの関係に留意する必要がある.Fig.2は,約9000x約4500画素(水平,垂直)の超高精細画像を異なる分解レベルでJP2符号化した時のSNRの比較を示す. SNR値は,分解レベルが違っても,さほどの差はないが, 復号画像を観察すると,分解レベルが小さい程,低域部分の視覚歪が顕著となる.
幾つかのメーカからJP2-LSIが発表され,実際の具体的な市場応用はこれからである.超高精細画像メディアについても, リアルタイム符号化・復号化するハードの実現に向け、今後の新たな展開が期待される.
|
異方性3次元テクスチャを用いた森林と積雪景観の表現法 |
田村真智子(滑竡閭\フトウェアセンター ) |
コンピュータグラフィックス(CG)による広大な森林景観の表現手法として,筆者らの一部は森林のためのボリュームレンダリング法を提案し,高品質な森林画像が生成できることを示した.この手法では,遠方の樹木のレンダリングにおけるエイリアシングの発生を防ぐため,樹木データに複数解像度のボリュームデータとポリゴンデータとを併用したLOD(Level of Detail)法を用いている.しかしながら,ボリュームレンダリングは多くの処理時間を必要とし,近景に用いたポリゴンデータと,遠景に用いたボリュームデータとの境界部分が認識されてしまうという問題が残されていた.また,冬季の近接景観の表現については,著者らの一部は石灯籠や樹木,家屋などの積雪をリアルに表現するための雪のビジュアルシミュレーション法を提案しているが,表現可能な領域が狭く,公園や森林などの広い範囲の積雪景観への適用は困難であった.このため,本報告では,樹木のボリュームデータの特徴である,中心部に濃度が集中しているという特徴に着目したボリュームレンダリングの高速化法を示し,LOD法のスムーズな切り替え手法として,ポリゴンモデルとボリュームデータの境界に幅を持たせ,両者のレンダリング結果をミックスすることによって境界を目立たなくする方法,および,樹木のデータとして異方性3次元テクスチャを用いる方法を提案し,実験例によりその効果を示した.さらに,広範囲の積雪景観を効率よく生成するための手法として,異方性3次元テクスチャとディスプレイスメントマッピングを用いた方法を示し,画像生成例によりその効果を示した.
|
森林景観のためのリアルタイムレンダリング法 |
太田真(滑竡閭\フトウェアセンター) |
コンピュータグラフィックスによる自然景観,特に森林景観の映像表現は,景観シミュレーションや操縦シミュレータ,映画の特撮などさまざまな応用を持つ重要な課題である.これまで,広大な森林景観の画像をCGで作成する手法として,3次元テクスチャを用いた手法や,書き割りの板に2次元テクスチャを貼り付ける手法などが用いられてきた.しかしながら,前者ではレンダリングに時間がかかり,後者では見る角度によって書き割りの板が見えるなど,立体感や自然さが失われるという問題がある.本報告では,書き割りの手法を拡張した,バンクテクスチャと呼ぶ投影画像テクスチャを複数用いる手法について提案した.
本手法では,前処理として一本の樹木を複数方向から投影したバンクテクスチャと呼ぶ画像テクスチャを作成する.バンクテクスチャは,樹木1本の3次元ポリゴン形状に対し,方向と仰角を一定間隔ずつずらした投影方向に対してレンダリングを行い,投影画像を生成する.仰角は水平面から0度,30度,60度,90度とし,それぞれの仰角ごとに,樹木の周囲の16,8,4,1方向からレンダリングを行う.
森林景観のレンダリング時には,樹木が配置されている位置に板状のパッチを配置し,その板状パッチを常に視点方向を向くように回転させる.そして,その視点方向の角度に合わせた投影画像テクスチャ(“視点方向テクスチャ”と呼ぶことにする)をリアルタイムに生成し,板状パッチにマッピングしてレンダリングを行う.視点方向テクスチャは,メモリに保存してあるバンクテクスチャのうち,視点方向に最も近い方向を向いているもの2つを選択し,2つのバンクテクスチャを,視線ベクトルとの角度に応じてブレンド合成することにより生成する.
本手法により樹木の立体感を損なわず,リアルタイムで仮想の森林をウォークスルーすることが可能であることを,アニメーション画像により示した.今後は,バンクテクスチャ生成時の照明環境とウォークスルー時の照明環境の違いによる,ポリゴンとバンクテクスチャとのレンダリングの差異を少なくするための改良を行う予定である.
|
テクスチャバッファを用いた3次元ボリューム表示システムの開発 |
大田 敬太(岩手県立大学 ) |
医療分野では、CTやMRIなどの機器が普及しており、これらの機器は物体の内部を2次元平
面に投影するのではなく、3次元でとらえることができるため、形状をより正確に理解することが
できるという利点を持っている。しかし、CTやMRIから得られる3次元画像をリアルタイムで
表示しようとした場合、特殊なハードウェアを必要としたり、ソフトウェアによる表示は実用的な
速度が出ないという問題点があった。
そこで使われるのがテクスチャマッピングを用いた表示方法である。物体から等間隔に取り出さ
れた断面画像をテクスチャとして面に貼りつけ、この面を平行に配置していく。
面の配置方法は1方向のみ配置する場合や、複数の方向に対して面を用意する配置方法がある。
この方法の利点として、複雑なハードウェアを必要とせず、一般的なグラフィックボードを持っ
たディスクトップPCで表示を行うことができるということがある。
また、3次元画像は物体の内部の形状も保持しており、クリッピングの機能を用いることで任意
の断面を見ることができる。
さらにボリュームレンダリングへ拡張し、画素に透明度を設定して奥のビルボードから順番にア
ルファブレンディングを行いながら表示を行ってゆくことで、半透明の物質を扱うことができる。
実際の表示速度を計測したところ、一般的なディスクトップPC上で毎秒20フレーム前後の実用
的な速度をあげることができた。
本発表では、テクスチャマッピングを利用した3次元画像のリアルタイム表示と、ボリュームレ
ンダリングへの拡張を行い、一般的なディスクトップPCにおける表示で有効であることを示した。
|
海洋音響トモグラフィーの画像再構成シミュレーション |
土屋林太郎(岩手大学 ) |
今までの海洋観測は、衛星観測、航空観測や海洋ブイ等による観測が主であった。最近、エルニーニョ現象等を解析するために、海中を含む広域海洋3次元空間の観測手法が求められている。高度なところからの測定では、海洋3次元空間の全体を測定するには不適切であり、海洋内部の測定が必要とである。海洋音響グラフィティーの利点は、海洋3次元空間の内部に接していることである。
海洋音響トモグラフィーは、の広大な海洋空間を立体的に観測し、かつ海洋中の水温分布や流速分布を同時刻に広域立体観測することを可能にする新しい海洋観測手法である。しかしながら海洋音響トモグラフィーでは、解析するための情報が不十分なので、空間解析に欠如が起こる。そこで、少数のデータでも、より良い画像を再構成できる方法が望まれている。従来の手法では、少数のデータからより良い大型画像を得ることは難しかった。
本文では、受波器において観測された音波伝搬特性を基に、送・受波器の位置を既知として音速分布を求める逆問題を扱っており、極少数方向の限られた少数のデータから、局在性の良いウェーブレット標本化モデルと未知数となる画素数を大幅に削減できる可変標本化と特異値分解を導入して、高速に大型画像を再構成するアルゴリズムを検討している。
|
画像再構成のVLSI アーキテクチャ |
小向秀樹(岩手大学 ) |
X線CT (Computer Tomography)に代表されるようなコンピュータを用いた不可視物体の可視化システムは、医療の分野のみならず他の分野においても需要が高まってきている。
産業分野、特に工業分野では、PL法が施行されたこともあり、製品の不良検査に基づく信頼性や安全性への要求が非常に厳しくなっている。そのために、対象物体を生産・検査ライン上で低コストかつ高速に画像化する実時間内部可視化システムの登場が強く望まれている。しかし、現存の産業用CTでは、検査装置が高くなり、検査時間も非常に長く、全数検査には向かないのが現状である。
生産・検査ライン向けの産業用CTに要求される条件は、@データ収集時間が短いこと、A画像再構成時間が短くほぼリアルタイムで処理できること、そしてB安価であること、C画質は不良判別できる程度で使用できる、ということである。
そこで当研究室では、少数方向の投影データからある程度良好な高速に再構成する手法として“FMR法(Fast Model Reconstruction)”を提案している。「任意点での濃度値と各標本点での濃度値との影響関係」を示す係数を前もって計算して特異値分解を行い再構成係数を算出しておいて、画像再構成時には投影値に再構成係数を積和演算することによって高速に再構成画像を得ることができるという特徴を持っている。投影スキャン方式が一様透過性満たす場合には、各画素の演算は独立して行えるため、ハードウェアによる並列処理をさせることに適しているといえる。
本研究では‘局所再構成定理’を用いたFMR法に基づいて、再構成演算を高速にかつ効率よく実行する専用演算装置の開発を目指している。本CT手法の特長を活かした並列演算方式や、回路構成(アーキテクチャ)考案し、FPGAさらにはASIC(特定用途向けIC)化を考慮に入れた設計の検討、比較を行った。
|
成長によって構造特徴が変化する生体テクスチャパターンの認識法 |
板屋一嗣(岩手大学 ) |
人間の指紋や牛の鼻紋などに代表される生物がもつ模様的パターン(以下,生体テ
クスチャ)は,個個の生体によって異なった特徴を有しており,個体識別に利用でき
ることが広く知られている。しかし例えば,牛の鼻紋は,人間の指紋に比べるとパタ
ーンの構造が複雑であり,更に成長の段階において構造特徴に変化や歪みを受けてし
まうため,従来指紋照合に用いられてきたような手法ではうまく認識できない。
本発表では,このような成長変化を受けた生体テクスチャについても適用可能な,
新しい認識手法を提案した。具体的な生体テクスチャの例として牛の鼻紋パターンに
着目し,鼻紋パターンを WES形式のデータ構造で表現した上で,これを効果的に認識
するため,閉路領域の照合を主体とするグラフマッチング的な認識手法を新たに提案
した。特に,マッチング処理を柔軟化・効率化するために,横型探索に基づくグラフ
マッチングを基本戦略に選んで,これにハフ変換的な探索開始閉路対決定処理と複数
の未探索閉路領域の統合処理を取り入れて処理の効率化を図った鼻紋認識法を構成し
た。さらに,提案手法の有効性を確認するために行った評価実験結果について報告し,
提案手法がこの種の生体テクスチャパターンに対して十分に実用的な対処が可能であ
ること示した。
|